助成金・制度 カスハラカスタマーハラスメント義務化中小企業労務管理

カスハラ対策の義務化|義務10項目を8つの作業に訳す【2026年8月】

カスハラ対策の義務化|義務10項目を8つの作業に訳す【2026年8月】

結論: カスハラ対策の義務化とは、罰則で企業を取り締まる制度ではなく、2026年10月1日から全事業主に「従業員を守る体制を用意しておくこと」を求める制度です。国の指針が定める措置は10項目ありますが、中小企業の作業に訳すと8つで、そのうち6つはA4で1枚の文書を作るだけで終わります。この記事では、指針本文(令和8年厚生労働省告示第51号)を読んで10項目を8つの作業に翻訳し、方針と記録様式のひな形、罰則の実像、施行日までの割り付けまでを書きます。

この記事の要点

  • 施行は2026年10月1日。企業規模を問わず全事業主が同じ日から対象で、パワハラ対策のときに附則で置かれた中小事業主の猶予規定が、今回の改正法の附則にはない
  • 指針が求める措置は10項目。設備投資が必要な項目は1つもなく、中小企業の作業に訳すと8つになる
  • 対策を怠ったこと自体への罰金はない。勧告に従わなければ公表され得るが、経営に効くのはむしろ、労災の認定基準にカスハラが明記されたことと、記録がないまま争う民事リスクのほう
  • 顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は27.9%(厚生労働省委託・令和5年度実態調査、従業員30人以上・n=7,775)。医療・福祉は53.9%で全体の約2倍
  • 10項目のうち事実確認・再発防止・悪質事案の判断は、すべて対応記録が残っていることが前提になる。準備でいちばん時間がかかるのは記録を続けられる形にすること

この記事は、従業員が数十人から300人くらいで、労務を1人か2人で見ている総務・管理部門の担当者と経営者に向けて書いています。すでに指針10項目に沿った規程・相談窓口・記録様式が動いている会社であれば、この記事から新しく得られるものはほとんどありません。

今日やることは1つです。相談窓口を誰にするか決めて、その名前を社内に伝えてください。 10項目のうち、いちばん早く終わって、いちばん後続の作業を動かしやすいのがここだからです。窓口が決まらないと、方針を書いても届け先が決まらず、記録様式を作っても集める先が決まりません。専任である必要はなく、既にパワハラの相談窓口があるなら、そこに相乗りして構いません。

義務10項目の地図(番号を押すとその項目の解説へ飛びます)

事前 | 方針を決めて伝える(聞くこと: 誰の名前で、どこに掲げるか)

事前 | 窓口を決める(聞くこと: 誰に言えばいいか全員が答えられるか)

事前 | 相談者を守る(聞くこと: 相談内容を誰まで見られるか)

事後 | 起きたあとに動く(聞くこと: 何を見て事実を確かめるか)

事後 | 悪質な相手を止める(聞くこと: どこで対応を打ち切るか)

丸数字は指針の措置10項目の番号です。この記事では丸数字を10項目だけに使い、後で出てくるチェックリストは算用数字で書き分けています。

いつから・誰が対象か|2026年10月1日、全事業主に一斉

結論: 施行日は2026年10月1日で、中小企業を含むすべての事業主が同じ日から対象になります。企業規模による段階施行や猶予期間は設けられていません。

制度の骨格は次のとおりです。根拠となる改正法は2025年6月11日に公布され、義務の中身は国の指針が定めています。ここでいう指針とは、法律の中身を具体的にするために国が正式に出す文書のことです。

項目内容
施行日2026年(令和8年)10月1日
根拠法改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号・2025年6月11日公布)
措置義務の条文改正後の第33条第1項
義務の中身を定める指針令和8年厚生労働省告示第51号(2026年2月26日)
対象すべての事業主(企業規模による猶予なし)
同じ日に始まるもの求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化(改正男女雇用機会均等法・令和8年厚生労働省告示第52号)

パワハラ対策のときは、2020年6月に大企業から始まり、中小企業への適用は2022年4月からでした。2年の猶予があったわけです。この猶予は、当時の改正法の附則に中小事業主を当分の間は努力義務とする規定が置かれていたことで生じました。今回の改正法の附則には、これに相当する規定がありません。 「大企業から順に始まるはずだから、うちはまだ先」という前回の経験則が通用しないのは、この違いがあるからです。

「職場」は自社の建物の中だけではない

対象の広さを見誤りやすいのが「職場」の範囲です。指針は、職場を「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」と定め、通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する場所であれば職場に含まれるとしています。指針が挙げている例は、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅です。加えて、店舗や施設での対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含まれます。

つまり、店舗や窓口を持たない会社も外れません。訪問工事、保守、訪問介護、外回りの営業のように、従業員が客先へ出ていく仕事は、むしろ対象のど真ん中です。

守る対象は「雇用する労働者」の全員

指針は「労働者」を、正規雇用労働者だけでなくパートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者のすべてと定めています。人数の少ない会社ほど、パート・アルバイトが最前線で客に接しています。方針と窓口の周知先は、正社員の名簿ではなく全員です。

派遣スタッフの扱いは少し違うので、後の「守る責任は誰にあるか」でまとめて書きます。

「顧客等」には潜在的な顧客や近隣住民まで入る

指針が挙げる「顧客等」の例は次のとおりです。今後商品を買う可能性がある人や、今後取引する可能性のある相手まで含まれます。

  • 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
  • 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
  • 取引先の担当者
  • 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
  • 施設・サービスの利用者及びその家族
  • 施設の近隣住民

一般消費者を相手にしていない会社も対象から外れません。発注元の担当者から受注側の従業員への言動も、要件を満たせばカスハラです。契約前の交渉相手も入っているので、「まだ客ではない」という線引きも通りません。

確かめ方: 「うちは接点が少ないから対象外では」と考えたくなりますが、法律に接点の有無で外れる規定はありません。労働者を1人でも雇っていれば対象です。確かめるべきなのは対象かどうかではなく、攻撃がどこから来るか(対面・電話・メール・SNS・訪問先・近隣)の洗い出しのほうです。

カスハラとは何か|3要素をすべて満たすものだけが該当する

結論: 法律上のカスタマーハラスメントは、①顧客等の言動であること、②業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えていること、③労働者の就業環境が害されること——この3つをすべて満たすものです。1つでも欠ければ該当しません。

指針は、顧客等からの苦情のすべてがカスハラにあたるわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは「いわば正当な申入れ」であると明記しています。厳しい言い方をされた、長く話し込まれた、という事実だけでは足りません。

図1: 3つのゲートを全部通過して初めてカスハラになる

カスハラ該当性の3要素判定顧客等の言動かどうか、社会通念上許容される範囲を超えているかどうか、労働者の就業環境が害されているかどうかの3つを順に判定し、3つすべてに当てはまる場合にのみカスハラに該当する。1つでも当てはまらなければ正当な申入れなどとして扱う。1つ目のゲート顧客等の言動か(取引先・利用者・近隣住民・潜在的な顧客も含む)いいえ →社内の問題として扱う2つ目のゲート社会通念上許容される範囲を超えているか=要求の内容が契約内容からして相当性を欠く/手段や態様が相当でないいいえ →正当な申入れ3つ目のゲート労働者の就業環境が害されているか=就業する上で看過できない程度の支障が生じている(平均的な労働者の感じ方で判断)いいえ →正当な申入れ3つすべてに当てはまる=カスタマーハラスメント

図の内容: 顧客等の言動か/社会通念上許容される範囲を超えているか/就業環境が害されているかの3つを順に見て、すべてに当てはまるものだけがカスハラにあたる。

範囲を超えた言動は「内容」と「手段」の2系統

指針が挙げる典型例は、要求の中身がおかしいものと、要求の仕方がおかしいものの2系統に分かれます。

系統指針が挙げる例
言動の内容が許容範囲を超えるものそもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求(性的な要求、労働者のプライバシーに関わる要求)/契約等により想定しているサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求(契約金額の著しい減額の要求)/不当な損害賠償要求
手段や態様が許容範囲を超えるもの身体的な攻撃(殴る、蹴る、物を投げつける、つばを吐きかける等)/精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要、SNSへのプライバシー情報の投稿、人格否定、盗撮等)/威圧的な言動/継続的、執拗な言動(同じ質問の執拗な繰り返し、揚げ足取り、同様のメールの繰り返し送付)/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁、長時間の電話)

現場で判断がつきやすいのは手段の側です。暴言や居座りは誰が見ても線を越えたと分かります。難しいのは内容の側で、「契約等により想定しているサービスを著しく超える要求」かどうかは、自社の契約とサービス範囲を知らないと判定できません。線引きの基準は、自社の契約書と業務範囲の中にあります。

判定で外しやすい4点

指針は、この2系統の例を挙げたうえで、判定にあたって次の点に注意するよう求めています。実務で最も誤解されるところなので、そのまま押さえてください。

  1. 「言動の内容」と「手段や態様」の一方だけが範囲を超える場合でも該当し得る。両方そろわないとカスハラではない、というのは誤りです
  2. 例は限定列挙ではない。指針に載っていない言動でも該当することがあります
  3. 1回の言動でも成立し得る。指針は、頻度や継続性は考慮するとしつつ、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動の場合は1回でも就業環境を害する場合があるとしています。指針が精神的な攻撃の例に挙げている土下座の強要は、1回でも成立し得る典型として押さえておくと判断しやすくなります
  4. 自社側の不適切な対応が原因や背景になっている場合がある。指針は、事業主または労働者の側の不適切な対応が原因や背景となっている場合もあることに気を配る必要がある、としています

3つ目の要素「労働者の就業環境が害される」も、指針が言葉を定めています。その言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。判断の物差しは「平均的な労働者の感じ方」、つまり同じ状況で言動を受けたときに社会一般の労働者が支障を感じるかどうかで見ます。

義務化される10項目|指針の要求を中小企業の実務に訳す

結論: 指針が求める措置は10項目ありますが、設備投資が必要な項目は1つもありません。中身は「方針・窓口・相談者保護」の事前3グループと、「起きたあとの対応・悪質事案の抑止」の事後2グループに分かれ、事後の2グループはどちらも対応記録を土台にしています。

図2: 事前に作る3グループと、事後に動く2グループ。事後は記録の上に立つ

カスハラ措置10項目の構造10項目を5つのグループに分けた図。事前に用意するのは方針の明確化と周知が2項目、相談体制の整備が2項目、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止が2項目。事案が起きてから動くのは事後の対応が3項目と悪質事案の抑止が1項目で、この2グループはいずれも対応記録を土台にしている。施行日までに用意するもの(事前)方針を決めて伝える ①方針の明確化と周知 ②対処内容の周知成果物: 基本方針A4×1枚・対応ルール1枚窓口を決める ③相談窓口の設置と周知 ④担当者が対応できる体制成果物: 窓口担当者名・受付から誰へ上げるかの手順相談者を守る ⑨プライバシー保護 ⑩不利益取扱いの禁止成果物: 相談記録を見られる人の限定・不利益に扱わない旨の明文土台: 対応記録(日時・相手・要求内容・対応者・対応内容・次の一手)事案が起きてから動くもの(事後)起きたあとに動く ⑤事実関係の確認 ⑥被害者への配慮 ⑦再発防止記録が無いと⑤が始まらず、⑤が無いと⑦を決められない悪質な相手を止める ⑧対処の方針と体制の整備警告文・販売しない・出入り禁止・仮処分まで、事前に方針として決めておく

図の内容: 10項目は事前に用意する3グループと、事案が起きてから動く2グループに分かれ、事後の2グループはいずれも対応記録を土台にしている。

① 方針を明確にして周知・啓発する

カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にして、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです。指針が挙げる例は、社内報・パンフレット・社内ホームページなどに方針を記載して配布すること、トップメッセージとして社内に発信すること、研修や講習を実施することです。

指針は、方針を顧客等に対しても周知・啓発することが、被害の防止に当たっては効果的だとも書いています。店頭やウェブサイトへの掲示がこれにあたります。

② あらかじめ定めた対処の内容を周知する

カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知することです。指針が挙げる対処の例は7つあり、簡易版のリーフレットに載っている4つより広いので、そのまま引きます。

  • 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと
  • 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。必要に応じて労働者に代わって管理監督者等が対応すること
  • 顧客等とのやり取りを録音・録画すること(個人情報保護法等を守り、顧客等の個人情報を適切に取り扱う)
  • 労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること
  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
  • 現場対応が困難な場合には、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと
  • 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること

指針はこれを限定列挙ではないとし、各事業主が労働者の状況等の実態に応じて定めるよう求めています。中小企業の実務では、A4で1枚の対応ルールにこの7つを自社の言葉で落とすことになります。録音と「一定の時間で切ってよい」の2つは現場がいちばん助かる項目なので、必ず入れてください。本社・本部がない会社は「社長へ報告」と読み替えれば足ります。

③ 相談窓口をあらかじめ定めて周知する

指針が挙げる窓口の例は、担当者をあらかじめ定めること、相談に対応する制度を設けること、外部の機関に相談への対応を委託することの3つです。あわせて、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられる、労働者の上司にあたる管理監督者を担当者に定めることも考えられるとしています。

つまり、専任の担当者も新しい窓口も要りません。既にパワハラの窓口があるなら、そこに「カスハラも受け付ける」と1行足して周知すれば要件を満たせます。

④ 窓口担当者が適切に対応できるようにする

担当者が相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることです。指針が挙げる例は、担当者と関係部門が連携できる仕組みにすること、あらかじめ作成した注意点を記載したマニュアルに基づき対応すること、担当者に研修を行うことです。

この項目で見落とされやすいのが、指針が求める受け付ける範囲の広さです。指針は、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることと書いています。「これはカスハラですか」と現場が迷ったときに窓口へ上げてよい、という運用の根拠がここにあります。

確かめ方: 窓口担当者に「相談を受けたら次に誰に上げますか」と聞いて、名前が即答できるかを見てください。

⑨ 相談者等のプライバシーを保護する

相談者等の情報はプライバシーに属するので、必要な措置を講じたうえで、その旨を労働者に周知することです。指針は、プライバシーには性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれるとしています。

小さい会社ほど、相談内容が漏れるのではないかという心配が窓口の使いにくさに直結します。相談記録を見られる人を「窓口担当者と社長のみ」のように限定し、その限定を文書にして全員に伝えるところまでが、この項目の作業です。

⑩ 相談等を理由に不利益な取扱いをしない

この項目が守る範囲は、一般に思われているより広く取られています。指針が挙げる、不利益な取扱いをしてはならない行為は4つあります。

  1. カスハラに関し相談をしたこと
  2. 事実関係の確認等の措置に協力したこと
  3. 都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め、または調停の申請を行ったこと
  4. 調停の出頭の求めに応じたこと

つまり、社内に相談した従業員だけでなく、労働局に相談した従業員も守る対象です。指針は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書に規定して周知・啓発する例を挙げています。基本方針の1枚に1行足すだけでも周知の形にはなります。

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する

指針が挙げる確認の例は、管理監督者等がその場で確認して対応すること、窓口担当者・関係部門・専門の委員会等が相談者から確認することです。そのうえで、必要に応じて周囲の労働者からも聴取し、録音・録画等の客観的な証拠を確認するとしています。行為者が他社の労働者や他の事業主である場合は、その事業主に確認への協力を求めることも含まれます。

確認が困難な場合には、法第37条に基づく調停の申請その他中立な第三者機関に紛争処理を委ねることも例に挙げられています。中小企業が自力で抱え込まなくてよい逃げ道が、制度として用意されています。

確かめ方: 直近3か月で現場が「きつい」と感じたやりとりを1件挙げてもらい、その記録が残っているか探してみてください。探して出てこないなら、⑤はまだ動きません。

⑥ 被害者への配慮の措置を適正に行う

事実が確認できた場合は、速やかに被害者への配慮の措置を適正に行うことです。指針が挙げる例は、管理監督者等が被害者に代わって対応すること、被害者と行為者を引き離すこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、行為者に対応する担当者の変更や複数人での対応、配置転換、事業場内産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応です。

産業医がいない規模の会社は、地域産業保健センターなどの公的な相談窓口や、社長との面談で代替することになります。「産業医がいないから満たせない」という項目ではありません。

⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる

改めて方針を周知・啓発することに加えて、指針は2つの重要なことを書いています。

1つ目は、カスハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。事実が確認できなかったから何もしない、は指針の求めから外れます。

2つ目は、発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や、顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善を図ること。指針は、接客等における慣行の見直しや職場環境・組織風土の見直しも挙げています。カスハラ対策は守りだけの制度ではなく、自社側の問題を直す作業まで含んでいます。

⑧ 特に悪質なものへの対処方針を決めて体制を整える

労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知し、その対処を行える体制を整えることです。指針は措置を5つの見出しで束ねていますが、この⑧だけは1項目だけで1つの見出しを与えられています。

指針が挙げる対処の例は5つです。

  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
  • 行為者に対して警告文を発出すること
  • 法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと
  • 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること
  • 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てること

打ち切りだけではなく、警告文・取引の停止・出入り禁止・法的手続まで幅があります。指針は、方針に書く対処の内容を検討するにあたって、各業法等による定めがある場合など、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに気を配るよう求めています。医療や公共交通のように、法令でサービス提供の義務がある業種は「法令の制限内において」の但し書きが効いてきます。

確かめ方: 「何分続いたら、何回目から、誰の判断で終了できるか」を紙に書けるか試してください。書けないなら、まだ現場任せです。

中小企業がやること8つ|いつまでに、何を作るか

結論: 指針の10項目は、中小企業の作業に訳すと8つになります。順に、1相談窓口の担当者を決める、2基本方針を1枚作る、3対応ルールを1枚作る、4対応記録の様式を決める、5方針とルールを周知する、6悪質事案の対処方針を決める、7相談記録の管理ルールを決める、8振り返りの運用を決める、です。このうち6つは文書を1枚作るだけで、費用はかかりません。

この8つの割り付けは、指針10項目を当社が中小企業向けに翻訳したものです。指針そのものにこの区切りはありません。

#やること(成果物)対応する指針項目いつまで
1相談窓口の担当者を決めて全員に周知する。兼務でよく、既存のパワハラ窓口への相乗りでよい(担当者名を書いた掲示)③④第1週
2基本方針を1枚作る。毅然と対応し従業員を守る旨と、相談を理由に不利益に扱わない旨を社長名で(基本方針A4×1枚)①⑩第2週
3対応ルールを1枚作る。一人で対応させない/管理者へ引き継ぐ/録音・録画/一定時間で打ち切る/犯罪は警察へ/法的手続は弁護士へ(対応ルール1枚)第2週
4対応記録の様式を決める。日時・相手・要求内容・対応者・対応内容・次の一手を1件1枚で(記録様式1枚)第3週
5方針・ルール・記録様式を周知する。掲示・朝礼・短い説明会。周知した日付と参加者も残す(周知記録)①②第4週
6悪質事案の対処方針を決める。打ち切り・警告文・取引や来店の停止・法的手続のどこまでを、誰の判断で行うか(対処方針1枚)第3週
7相談記録の管理ルールを決める。見られる人を限定し、その限定を周知する(管理ルール1枚)第5週
8事案が起きたら振り返ってルールを更新する運用を決める。頻度と担当を決める(振り返りの運用メモ)⑥⑦第5週

順番には理由があります。1を先に置いているのは、窓口が決まると2以降の周知先と回収先が決まるからです。4の記録様式を5の周知より前に置いているのは、周知の場で「これに書いてください」と現物を見せられたほうが定着するからです。

基本方針1枚のひな形

2の成果物です。社名と日付と社長名を入れ替えれば、そのまま掲示できます。医療・宿泊・公共交通など、業法でサービス提供の義務が定められている業種は、「商品の販売・サービスの提供をお断りする」の行を自社の業法に合わせて書き換えてください。指針も、この対処を「法令の制限内において」と限定しています。

質問テンプレ(メール文面)
カスタマーハラスメントに対する基本方針

 当社は、お客様、お取引先、施設をご利用の皆様からのご意見・ご要望を、
サービス改善のための大切な資料として受け止めます。
 一方で、社会通念上許容される範囲を超えたご要望や、当社従業員の就業環境を
害する言動については、毅然とした態度で対応し、従業員を保護します。

【対象となる行為の例】
・要求に理由がない、または商品・サービスと関係のないご要求
・契約等により想定しているサービスを著しく超えるご要求
・暴言、脅迫、侮辱、土下座の要求、SNS等への従業員個人に関する投稿
・威圧的な言動、同じ内容の執拗な繰り返し、不退去や長時間の拘束

【当社の対応】
・従業員を一人で対応させず、管理者が引き継ぎます
・やり取りを録音・録画させていただく場合があります
・十分にご説明をしたうえでなお同じご要求が続く場合は、一定の時間で
 対応を終了させていただきます
・犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報します
・悪質と判断した場合は、法令の定めの範囲内で、商品の販売・サービスの提供を
 お断りすること、店舗・施設へのお立ち入りをお断りすることがあります

【従業員の皆さんへ】
・困ったときは相談窓口(担当: ○○)に相談してください
・相談したこと、事実確認に協力したこと、都道府県労働局への相談・紛争解決の
 援助の求め・調停の申請をしたこと、調停の出頭の求めに応じたことを理由に、
 解雇その他の不利益な取扱いをすることはありません

              2026年○月○日 株式会社○○ 代表取締役 ○○

対応記録様式のひな形

4の成果物です。1件1枚、5分以内で書ける分量に絞っています。

質問テンプレ(メール文面)
カスタマーハラスメント対応記録      記録番号: ______

1. 日時       年 月 日  時 分 〜  時 分(所要  分)
2. 経路    □来店 □電話 □メール □SNS □訪問先 □その他(  )
3. 相手    氏名・会社名(分かる範囲で):
        過去に同じ相手の記録がある □ある(記録番号  )□ない
4. 要求の内容 (相手の言葉に近い形で。長くなる場合は要点3つまで)

5. 対応者   最初に対応した人:     途中で交代した人:
6. 対応の内容 □説明した □管理者へ引き継いだ □録音した
        □一定時間で終了した □警察へ通報した □その他(  )
        具体的に:

7. 次の一手  □対応終了 □継続対応 □上長判断待ち □窓口へ提出済み
8. 記入者           記入日:   月  日

※録音・録画したデータは個人情報保護法等に従って取り扱い、閲覧できる人を
 限定してください。

施行日までの割り付け

2026年8月末の時点で、施行日までおよそ5週間です。文書を作る作業(1〜4と6)を第1〜3週に、人に伝えて運用に載せる作業(5・7・8)を第4〜5週に置くと崩れにくくなります。

図3: 施行日までの5週間の割り付け(2026年8月末を起点)

施行日までの5週間の逆算スケジュール2026年8月末から10月1日の施行日までを5週間に区切り、第1週に相談窓口の決定、第2週に基本方針と対応ルールの作成、第3週に記録様式と悪質事案の対処方針の作成、第4週に周知と説明会、第5週に相談記録の管理ルールと振り返り運用の確定を割り付けたスケジュール。2026年8月末 → 10月1日施行10/1文書を作る(第1〜3週)第1週 1 窓口を決める担当者名を確定。既存のパワハラ窓口への相乗りでよい第2週 2 基本方針 3 対応ルールA4で2枚。録音と「一定時間で打ち切る」を必ず入れる第3週 4 記録様式 6 悪質事案の対処方針警告文・取引停止・出入り禁止・法的手続のどこまでを誰の判断で行うか人に伝えて運用に載せる(第4〜5週)第4週 5 周知・説明会周知した日付と参加者も記録に残す。パート・アルバイトも対象第5週 7 相談記録の管理ルール 8 振り返りの運用

図の内容: 施行日までの5週間を、文書を作る第1〜3週と、周知して運用に載せる第4〜5週に分け、やること8つを割り付けたスケジュール。番号は表の番号に対応。

着手の時期によって、優先するものが変わります。

  • 5週間ある場合(2026年8月末から始める): 上の割り付けのとおり
  • 2週間しかない場合(2026年9月中旬から始める): 1(窓口)・2(基本方針)・4(記録様式)の3つだけを作り、その3つをまとめて周知する。3・6・7・8は10月に入ってからでも追いつきます
  • 2026年10月1日を過ぎてから読んでいる場合: 着手が遅れても義務は消えません。順番は同じで、1・2・4を最短で作って周知します。施行後は、その日以降に起きた事案の記録が残っているかどうかが問われるため、4の記録様式を最優先にしてください

確かめ方: 8つのうち何番までが「紙になっている」かを数えてください。頭の中で決まっているだけの項目は、周知も記録もできないので、聞かれたときに説明できません。

8つのうち何番までが紙になっているか、切り分けだけでも整理したい方へ。30分の無料相談で、無料の公式資料で足りる範囲とそうでない範囲をお伝えします。

準備でいちばん重いのは「対応記録」|10項目の土台は全部ここ

結論: 10項目のうち、事実確認(⑤)も再発防止(⑦)も悪質事案の判断(⑧)も、労働局から報告を求められたときの説明も、すべて「対応記録が残っていること」が前提です。方針や窓口は1日で作れますが、記録だけは日々の運用そのものなので、ここは前倒しで慣らしておく価値があります。

厚生労働省委託の令和5年度実態調査では、該当事案の内容の最多は「継続的な、執拗な言動」の72.1%でした(該当事案があった企業 n=1,880・複数回答)。継続的かどうかは、1回ごとの記録が並んで初めて言えることです。1件だけ見れば受け流せる程度の言動でも、同じ相手から何度も来ていたと分かれば判断は変わります。その差を作るのが記録です。

記録に何を残すか——6項目に絞る

現場が続けられる記録は、項目が少ないものだけです。前掲のひな形の6項目が基本になります。

項目書くことなぜ要るか
日時受けた日付と、開始・終了の時刻「継続的」「長時間の拘束」の判断材料になる
相手氏名または特定できる情報、来店・電話・メールなどの経路同一人物の繰り返しを後から数えられる
要求の内容相手が何を求めたかを、相手の言葉に近い形で契約の範囲を超えているかの判定に使う
対応者誰が受けたか、途中で誰に代わったか特定の人に負荷が集中していないかが見える
対応の内容何を答えたか、録音したか、どこで打ち切ったか再発防止のルール更新に直結する
次の一手継続対応か、終了か、上長判断待ちか記録が「書いて終わり」にならない

指針は、事実関係の確認にあたって周囲の労働者からの聴取に加えて録音・録画等の客観的な証拠を確認することを挙げています。紙の記録と録音は、どちらか一方ではなく組み合わせるものだと考えてください。録音にあたっては個人情報保護法等を守り、顧客等の個人情報を適切に取り扱うことが条件です。

記録が続かない3つの理由と対処

記録の仕組みを入れた会社が数か月で止まる理由は、だいたい3つに分かれます。

  1. 書く量が多い——項目を6つに絞る。自由記述欄は1つだけにする
  2. 書く場所が遠い——受付や電話機のそばに用紙を置く。事務所に戻らないと書けない形にしない
  3. 書いても何も起きない——月1回、記録をまとめて見る場を作る。振り返りがないと、書く意味が現場に伝わらない

3つ目が最も見落とされます。8番(振り返りの運用)を軽く扱うと、4番で決めた記録様式もやがて使われなくなります。

電話でのやりとりが多い会社では、人が書く量そのものを減らす方法もあります。通話の録音から要点を起こすやり方で、道具の選び方は議事録向け生成AIツール比較に整理しました。

確かめ方: 先月の対応を1件、様式に書き起こして5分で終わるか測ってください。5分を超えるなら、項目が多すぎます。

早見表|この場面はカスハラか、正当なクレームか

結論: 判定は3要素、すなわち顧客等の言動か、社会通念上許容される範囲を超えているか、労働者の就業環境が害されているか、のすべてを満たすかどうかで行います。1つでも欠ければ正当な申入れです。

表の見立ては3段階で、現場の動き方が変わります。「正当な申し出」は通常の顧客対応、「カスハラの疑い」は窓口へ上げる、「カスハラ」は対応ルールと打ち切り基準を適用する、です。

場面見立て理由
納品物の不備を指摘され、書面で改善を求められた正当な申し出要求に理由があり、手段も業務の範囲内。2つ目のゲートを通らない
不備の指摘が2時間続き、担当者が他の業務に戻れないカスハラの疑い要求に理由はあるが、手段が拘束的で就業環境が害されている
契約に無い作業を「今回だけ」と1度依頼された正当な申し出契約範囲を超えるが、1度の依頼で執拗さも威圧もない
契約に無い作業を、断った後も毎日同じ内容で求められるカスハラの疑い「契約等により想定しているサービスを著しく超える要求」+継続的・執拗な言動
感情的な口調で「二度と使わない」と言われた正当な申し出に近い不快ではあるが、要求内容に理由があり就業環境を害する段階に至っていない
担当者個人の容姿や私生活に言及されたカスハラの疑い指針が挙げる「労働者のプライバシーに関わる要求」に近く、態様によっては精神的な攻撃(人格否定)にもあたる
訪問先の顧客宅で長時間帰らせてもらえないカスハラの疑い顧客の自宅も「職場」。拘束的な言動にあたる
「上の者を出せ」と求められたどちらとも言えない要求自体は正当。対応者の交代は指針が挙げる配慮措置でもある
土下座や始末書を求められたカスハラの疑いが強い指針は土下座の強要を精神的な攻撃の例に挙げている。始末書の要求は指針に例示がないので、3つ目のゲート(就業環境が害されているか)で判断する
SNSで担当者の氏名を公開されたカスハラインターネット上の言動も対象。指針がプライバシー情報の投稿を例に挙げている
「殺す」「火をつける」などの発言があったカスハラかつ犯罪の疑い脅迫にあたり得る。対応の打ち切りと警察への通報の基準に該当する

この表には「どちらとも言えない」の行をあえて残してあります。指針は、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応することを求めているからです。現場が迷う場面を無理に白黒つけさせるより、迷ったら窓口に上げる運用にしたほうが指針にも合います。

医療・福祉や公共交通のように、相手を選べない仕事では、この表の使い方が少し変わります。相談の割合が最も高いのは医療・福祉の53.9%ですが、こうした業種では「対応を打ち切る」という選択肢そのものが取りにくくなります。指針も、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることに気を配るよう求めています。打ち切りではなく、対応者を交代する、複数名に切り替える、上長が引き取るといった段階を細かく用意しておくほうが現実に合います。

確かめ方: この表を印刷して、現場のリーダー3人に自分の判断を書き込んでもらってください。答えが割れた行が、自社で先に決めておくべき論点です。

罰則はあるのか|罰金はなく、勧告と公表で効かせる

結論: カスハラ対策を怠ったこと自体への罰金や懲役はありません。実効性は、行政指導と企業名の公表という別の仕組みで確保されています。

労働施策総合推進法は、厚生労働大臣がこの法律の施行に関し必要があると認めるときは事業主に対して助言・指導・勧告ができること、規定に違反している事業主に勧告をして従わなかったときはその旨を公表できることを定めています(改正後の第42条)。あわせて、報告を求められたのにその報告をせず、または虚偽の報告をした者は20万円以下の過料に処されることも定められています(改正後の第51条)。

図4: 罰金はないが、勧告に従わなければ公表され得る

カスハラ対策の実効性を確保する仕組み労働者からの相談が都道府県労働局へ行き、厚生労働大臣の助言・指導・勧告があり、勧告に従わない場合はその旨が公表され得るという流れの図。別系統として、報告を求められて報告しない場合や虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料の定めがある。カスハラ対策を怠ったこと自体への罰金や懲役はない。カスハラ対策を怠ったこと自体への罰金・懲役はない措置義務を果たしていない場合の流れ労働者が都道府県労働局へ相談厚生労働大臣の助言・指導・勧告(改正後 第42条)勧告に従わなかったときその旨を公表別系統: 報告を求められたとき報告をしない・虚偽の報告20万円以下の過料(改正後 第51条)

図の内容: カスハラ対策を怠ったこと自体への罰金・懲役はない。措置を講じていない事業主には助言・指導・勧告があり、勧告に従わなければ公表され得る。別系統として、報告をしない・虚偽の報告には20万円以下の過料の定めがある。

ここで正確に押さえておきたいのは、20万円以下の過料は「カスハラ対策をしていないこと」への罰ではなく、「行政から求められた報告に応じないこと」への罰だという点です。この2つを混同して「対策しないと20万円取られる」と説明している解説を見かけますが、条文の作りは違います。

本当に効くのは労災と民事責任のほう

罰則の話で終わると、経営者に「急がなくていい」と読まれます。実務で先に来るのは、行政指導ではなく労働者側の動きです。

厚生労働省は2023年9月1日に精神障害の労災認定基準を改正し、心理的負荷の評価表の具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」を追加しています。カスハラを受けて精神障害を発症した場合が、労災認定の枠組みに正面から入ったということです。

労災が認定されれば保険給付は行われますが、それとは別に、会社が安全配慮義務を果たしていなかったとして損害賠償を求められる余地が残ります。ここで争点になるのが、相談があったときに会社が何をしたかの記録です。窓口に上がった相談に対して、事実を確認し、配慮の措置を取り、再発防止を講じた記録があるかどうかで、会社の立場は変わります。

10項目を「行政に怒られないため」ではなく「争いになったときに説明できるため」の作業として見ると、記録の優先度が上がるはずです。

従業員の相談先と、会社が知っておく経路

労働者は、社内の窓口とは別に、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。法は紛争解決の援助(第36条)と調停(第37条)も用意しています。助言・指導・勧告そのものは厚生労働大臣の権限で、条文に「労働者の相談を起点とする」とは書かれていませんが、実務上は労働者からの申出が行政の目に留まるきっかけになります。

会社側から見ると、この経路を知っておくことには2つの意味があります。1つは、社内で抱え込めない事案を調停に委ねられることです。指針も、事実関係の確認が困難な場合に調停の申請を挙げています。もう1つは、⑩の不利益取扱いの禁止が、社内相談だけでなく労働局への相談や調停の申請にも及ぶことです。

確かめ方: 自社が労働局から報告を求められたら、何を出せるか数えてください。方針・窓口の周知記録・対応記録の3つがそろっていれば、説明はできます。

数字で見る現在地|相談があった企業は27.9%、医療・福祉は53.9%

結論: 厚生労働省委託の令和5年度実態調査(従業員30人以上・有効回答7,780件・2023年12月実施)では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は27.9%(n=7,775)でした。ただし業種による差が大きく、最も高い医療・福祉は53.9%と全体の約2倍です。

医療・福祉に次いで高いのは宿泊業・飲食サービス業の46.4%、不動産業・物品賃貸業の43.4%です(いずれも同じ調査)。

この調査の対象は従業員30人以上の企業・団体なので、従業員30人未満の会社の実態は含まれていません。自社に当てはめるときは、そこを割り引いて読む必要があります。

図5: カスハラの相談があった企業の割合は業種で2倍近く違う

業種別に見たカスハラ相談があった企業の割合過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業の割合を業種別に示した横棒グラフ。医療・福祉が53.9パーセント、宿泊業・飲食サービス業が46.4パーセント、不動産業・物品賃貸業が43.4パーセントで、全業種は27.9パーセント。過去3年間にカスハラの相談があった企業の割合(業種別)医療、福祉53.9%宿泊業、飲食サービス業46.4%不動産業、物品賃貸業43.4%全業種27.9%出典: 厚生労働省委託 令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査(概要版)・全業種はn=7,775

図の内容: カスハラ相談があった企業は全業種で27.9%だが、医療・福祉は53.9%、宿泊業・飲食サービス業は46.4%、不動産業・物品賃貸業は43.4%と、業種によって2倍近く違う。出典は厚生労働省委託の令和5年度実態調査で、全業種はn=7,775。

同じ調査から、準備の優先順位を決めるうえで効く数字がいくつも出ています。分母は設問ごとに違うので、あわせて書きます。

数字何を示すか準備への含意
該当事案あり 86.8%相談があった企業(n=2,167)のうち「該当する事案があった」割合。6種のハラスメント中で最高相談が上がる会社では、ほぼ実際に事案が起きている。窓口を作れば件数は出てくる前提で設計する
継続的・執拗な言動 72.1%該当事案があった企業(n=1,880・複数回答)の事案内容の最多単発の暴言より、繰り返しの積み重ねが主戦場。1回ごとの記録がないと「繰り返し」を示せない
顧客等から自社従業員へ 91.6%同(n=1,880・複数回答)の行為者と被害者の関係の最多想定すべき主流は社外から社内への言動。窓口は社内の従業員が使いやすい形にする
通常業務への悪影響 63.4%同(n=1,880・複数回答)の損害・被害の内容の最多被害は精神面だけでなく業務が止まることとして現れる。打ち切り基準が業務を守る
判断が難しい 59.6%対策に取り組んでいる企業が挙げた課題の最多。ハラスメント全般が対象の設問で、カスハラ限定ではないすでに動いている会社でも判断に迷っている。線引きの基準を文書で持つことが要になる

出典: 厚生労働省委託「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」

もう1つ、この調査でカスハラだけに現れた特徴があります。相談件数の推移を聞いた設問で、「増加している」(23.2%)が「減少している」(11.4%)を上回ったのは6種のハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、介護休業等ハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為、就活等セクハラ)のうちカスハラだけでした。社内向けのハラスメント対策が効いてきた一方で、社外から来るものだけが増え続けている。それが数字から読める現在地です。

3年でどう変わったか——2つの調査を並べて数えた

同じ調査は数年おきに行われています。直近は3年ぶりでした。令和2年度と令和5年度の報告書を当社で並べて突き合わせたのが下の表です。

指標令和2年度(2020年10月調査)令和5年度(2023年12月調査)
相談があった企業19.5%27.9%
相談があった企業のうち該当事案ありと答えた企業92.7%86.8%
行為者と被害者の関係の最多「顧客等から自社従業員へ」91.5%91.6%
パワハラの相談があった企業48.2%64.2%
相談件数で「増加」が「減少」を上回るハラスメントカスハラのみカスハラのみ

(当社調査: 厚生労働省委託の令和2年度・令和5年度の各報告書を2026年8月28日に突き合わせて集計)

この差を実勢の増減として読むことはできません。 令和2年度の報告書は、その前の平成28年度調査と比べる際、企業規模の割付が異なるため300人以上と299人以下に切り分けて比較したと注記しています。同じ制約は令和2年度と令和5年度の比較にも当てはまる、というのが当社の判断です。実際、発送数の内訳は令和2年度が300人未満12,086件・300人以上11,914件、令和5年度が300人未満7,412件・300人以上17,588件で、大企業の比率が上がっています。該当事案の内容も、両年度で選択肢の文言が変わっているため比較から外しました。

そのうえで傾向として読めることが2つあります。1つは、カスハラだけが「増加」優位である構図が3年を挟んで変わっていないこと。もう1つは、相談があった企業のうち「該当する事案はない」と答えた企業の割合が、7.3%(100−92.7)から13.2%(100−86.8)へ増えていること。窓口を作れば、「これはカスハラではない」という判定も一定数出てきます。判定の基準を先に決めておく必要があるのは、このためです。

守る責任は誰にあるか|派遣・請負・業務委託の切り分け

結論: 派遣スタッフが客から攻撃を受けた場合、措置義務を負うのは派遣元だけではありません。改正法にあわせて労働者派遣法も改められ、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされて、カスハラの措置義務を負います

改正後の労働者派遣法第47条の4は、派遣労働者の就業に関しては派遣先もその派遣労働者を雇用する事業主とみなして、労働施策総合推進法の複数の条文を適用すると定めています。そのうちカスハラに関わるのが、措置義務の条文(改正後の第33条第1項)と、労働者への研修等の配慮の条文(同第34条第2項)の2つです。しかもこの読み替えでは、条文中の「雇用管理上」が「雇用管理上及び指揮命令上」に変わります。現場で指示を出しているのは派遣先だから、守るのも派遣先だという整理です。

働き方現場でカスハラを受けたときの扱い根拠
自社の正社員・パート・契約社員自社(雇用する事業主)が10項目の措置を講じる改正労働施策総合推進法 第33条第1項
派遣スタッフ派遣先と派遣元の両方が措置を講じる改正労働者派遣法 第47条の4のみなし規定
請負・業務委託・フリーランス措置義務の対象外。ただし指針は、同じ方針を併せて示すこと、相談があれば措置を参考に適切な対応を行うよう努めることを「望ましい取組」としている指針の望ましい取組

派遣について、指針はもう1つ強い定めを置いています。派遣先は、派遣労働者がカスハラの相談を行ったこと等を理由として、その派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等の不利益な取扱いを行ってはならない、というものです。相談してきた派遣スタッフの交代を求める、派遣契約を打ち切る、といった対応は不利益取扱いにあたり得ます。

請負・業務委託で入っている人については措置義務の対象外ですが、「何もしなくてよい」という意味ではありません。指針は、方針の明確化を行う際に、自社が雇用する労働者以外の者(他社の労働者、個人事業主等)に対する顧客等の言動についても同様の方針を併せて示すことを望ましい取組として挙げています。現場が混在している以上、同じルールで守る運用にしたほうが管理も簡単になります。

確かめ方: 自社の現場に、雇用関係のない働き手(派遣・請負・業務委託)が何人いるかを数えてください。1人でもいれば、窓口の周知先は自社の従業員名簿だけでは足りません。

自社が加害者側になったとき——3つの努力義務

ここまでは自社の従業員を守る側の話ですが、改正法は反対向きの責務も定めています。「顧客等」に取引の相手方が含まれる以上、自社の社員が発注側の立場で取引先の担当者に威圧的な要求をすれば、今度は自社が加害者側です。

改正後の第34条は、国・事業主・労働者・顧客等の4者それぞれに努力義務を置いています。会社に関係するのは次の3つです。

誰が何を努める義務か条文
事業主雇用する労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をする。事業主自身(法人ならその役員)も同じ注意を払う第34条第2項・第3項
労働者他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払い、事業主の講ずる措置に協力する第34条第4項
顧客等労働者に対する言動がその労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払う第34条第5項

注意したいのは、労働者の努力義務が「他社の労働者に対する言動」に向いていることです。顧客に注意を払う義務が従業員に課されたわけではありません。

もう1つ、取引先から連絡が来る場面も制度に組み込まれています。改正後の第33条第3項により、事業主は他の事業主から事実確認等の措置について協力を求められたときは、これに応ずるよう努めなければなりません。指針はこれに3つの補足を付けています。協力を求められたことを理由に相手の会社との契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないこと、協力した自社の労働者に不利益な取扱いを行わない旨を定めて周知することが望ましいこと、事実が確認できた場合は就業規則等に基づき行為者に必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましいことです。

社内への周知を「あなたたちは守られます」だけで終わらせず、「発注側に立つときは自分が加害者になり得ます」まで含めておくと、この責務にも同時に対応できます。基本方針の1枚に1行足すだけで足ります。

確かめ方: 自社の社員が発注側の立場で取引先の担当者と接する場面が、月に何回あるかを挙げてください。回数が多い部署ほど、周知は「守られる側」と「加害しない側」の両面で行う必要があります。

自治体の条例との関係|国の10項目を整えれば大半は満たせる

結論: 東京都は2025年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行しています。国の措置義務とは別の層ですが、二重に作業が増えるわけではありません。

条例は罰則を置かず、努力義務の形で事業者に取組を求めています。第14条第1項が挙げているのは、必要な体制の整備/カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮/カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成/その他の措置の4つです。

このうち体制の整備と就業者への配慮は、国の指針10項目とほぼ重なります。国の10項目を整えれば、この2つは自然に満たせる形です。別に用意することになるのは「手引の作成」で、都は指針(ガイドライン)を出しているので、それをもとに自社の手引を1本作ることになります。手引は一から書き起こす必要はなく、「やること8つ」の3で作る対応ルール1枚を土台にできます。

条例は自治体ごとに内容も施行時期も違います。自社の所在地に条例があるかどうかは個別に確認してください。

費用と支援|無料の公式資料と、研修に使える助成金

結論: カスハラ対策の初期整備は、公式の無料資料を使えば追加費用ほぼゼロで始められます。ただし公式資料には版の問題があるので、そこだけ先に書きます。

厚生労働省の「あかるい職場応援団」に、ハラスメント対策の資料が無料で公開されています。開く順番に注意点があります。 このサイトのカスタマーハラスメント対策企業マニュアルやリーフレットには「※雇用管理上の措置を義務付ける法改正の成立前の内容となっておりますのでご留意ください」という注記が付いており、今回の10項目より前の版です。

先に見るべきなのは、ページ冒頭の「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」のほうです。こちらはパワハラ・カスハラ・セクハラ・求職者等セクハラを通して雇用管理上の措置の内容をまとめたもので、改正前の注記が付いていません。業種別マニュアルはスーパーマーケット業編(改正前の注記あり)と宅配業編(注記なし)の2業種だけなので、自社の業種のものがない会社のほうが多いはずです。その場合はこのパンフレットと指針本文で足ります。

使いたいものどこで手に入るか費用
措置10項目の正確な中身指針本文(令和8年厚生労働省告示第51号)。この記事で引いているのもこれ無料
措置の全体像を1冊で「あかるい職場応援団」の「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(改正前の注記なし)無料
基本方針・対応記録のひな形本記事のひな形2つ、または同サイトのカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(改正前の版なので指針との突き合わせが要る)無料
業種別のマニュアル同サイト。スーパーマーケット業編・宅配業編の2業種のみ無料
就業規則・社内規程への落とし込み顧問の社会保険労務士事務所により異なる
従業員向けの外部研修研修会社。内容によっては人材開発支援助成金の対象になり得る有料(助成金の対象になる場合あり)

社会保険労務士との付き合い方は社労士事務所のAI活用で、事務所側がどんな業務を抱えているかを書きました。どの範囲を頼むかを決めるときの参考になります。

外部研修に助成金を使うことを考えている場合は、先に仕組みを知っておいてください。人材開発支援助成金は、職業訓練等を計画どおりに行った場合などに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。計画届を出してから訓練を行い、終わってから支給申請をする順番になるので、費用は先に自社が払って後から戻る形です。この2点でつまずく会社が多いことは助成金は後払い人材開発支援助成金の申請の流れに書きました。研修そのものへの助成の落とし穴はAI研修に助成金は使えるかで扱った注意点がそのまま当てはまります。

申請可否と自社での適用は、必ず社会保険労務士または都道府県労働局に確認してください。制度の細部は年度で変わります。

確かめ方: 公式資料を開いたら、まず「法改正の成立前の内容」の注記があるかを見てください。注記がある資料は、⑧の悪質事案への対処・⑨のプライバシー保護・⑩の不利益取扱いの禁止が薄い可能性があります。

同じ10月1日に始まる「求職者等セクハラ」11項目

結論: 2026年10月1日には、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化も同時に始まります。措置は11項目でカスハラの10項目とは別立てなので、採用活動をしている会社は2つの準備を並行することになります。採用をしていない会社は、この節を読み飛ばして構いません。

根拠は改正男女雇用機会均等法と令和8年厚生労働省告示第52号です。対象となる「求職者等」には、求人に応募する求職者だけでなく、採用に資する活動に参加する者や、教育実習・看護実習その他の実習を受ける者が含まれます。求職活動等にはSNS等のオンラインを介したものも含まれます。

観点カスハラ対策(告示第51号)求職者等セクハラ対策(告示第52号)
守る対象自社が雇用する労働者求職者等(自社の労働者ではない)
想定する加害者顧客、取引の相手方、施設の利用者など社外の者自社が雇用する労働者
措置の数10項目11項目
相談窓口の周知先労働者求職者等(採用ページや面接案内での記載が要る)
特徴的な項目悪質事案への対処方針と体制の整備面談時間・場所の指定、実施体制、やりとりに用いるSNSの種類の指定など求職活動等に関するルールの明確化

実務で効いてくる違いは周知先です。カスハラは社内に伝えれば足りますが、求職者等セクハラは相談窓口を求職者等にも周知する必要があります。採用ページや面接の案内文に窓口の記載を足す作業が発生する、という理解で準備すると漏れません。

受けなくていい会社・この記事に含まれないこと

結論: この記事は「まだ何も手を付けていない中小企業が、10月1日までに最低限を揃える」ために書いています。次に当てはまる会社は、この記事を読む必要がありません。

今すぐ動かなくていい会社:

  • すでに指針10項目に沿った基本方針・相談窓口・記録様式が動いていて、周知の記録も残っている会社
  • 労働者を雇っていない一人会社(義務を負うのは事業主で、守る対象は雇用する労働者)
  • 顧問の社会保険労務士がすでに改正対応の計画を作り、着手時期まで決めている会社

この記事に含まれないこと:

  • 就業規則・社内規程の具体的な条文案——労働条件に関わるため、条文の書き方は社会保険労務士の領域です。相談先の選び方は社労士事務所のAI活用を参照してください
  • 業種別の詳細なマニュアル——厚生労働省のあかるい職場応援団にスーパーマーケット業編と宅配業編があります
  • 個別事案がカスハラにあたるかの法的判断——実際に起きた事案の評価は弁護士の領域です。この記事の早見表は社内の一次判断のための物差しであり、法的な結論ではありません
  • 記録の自動化ツールの導入手順——道具の比較は議事録向け生成AIツール比較を参照してください
  • 自治体条例の逐条解説——東京都以外の条例は扱っていません

Summary in English

Effective October 1, 2026, every employer in Japan must take measures against customer harassment under the amended Act on Comprehensively Advancing Labor Measures, and Stabilizing the Employment of Workers, and Enriching Workers’ Vocational Lives (Act No. 63 of 2025). There is no grace period for small and medium-sized enterprises, unlike the earlier power-harassment rules.

Ministry of Health, Labour and Welfare Notification No. 51 of 2026 defines customer harassment as conduct meeting all three elements: it comes from a customer or other party related to the business, it exceeds what is socially acceptable given the nature of the work, and it harms the working environment of employees. “Customers” include business counterparties, prospective customers, and neighbouring residents. “Workplace” covers any location where the employee performs work, including a client’s office or a customer’s home, as well as phone and social media. A single incident can qualify if the conduct is severe.

The guideline sets out ten required measures, none of which requires capital investment. It expressly permits recording calls, ending a call after a reasonable period, issuing a written warning, refusing service within legal limits, banning entry, and seeking a provisional court order. Dispatched workers are covered by the host company as well as the staffing agency.

There is no fine for non-compliance, but the Minister may advise, guide, recommend, and publish the name of an employer that ignores a recommendation. Failing to report or filing a false report carries an administrative fine of up to 200,000 yen. More material for employers is that the 2023 revision of the psychiatric injury compensation standard lists customer harassment as a qualifying event.

まとめ|作業は5週間で終わる。続くかどうかは記録で決まる

  • 施行は2026年10月1日。前回のパワハラ対策と違い、改正法の附則に中小事業主の猶予規定がない
  • 「職場」は客先・顧客宅・打合せの飲食店まで、「顧客等」は潜在的な顧客や近隣住民まで含む。店舗の有無や接点の多寡で対象から外れることはない
  • カスハラは3要素をすべて満たすもの。内容と手段の一方だけでも該当し得るし、強い苦痛を与える態様なら1回でも成立し得る
  • 指針10項目は中小企業の8つの作業に訳せる。方針と記録様式のひな形は本記事のものをそのまま使える
  • 対処の幅は打ち切りだけではない。録音、一定時間での終了、警告文、出入り禁止、仮処分まで指針が例として挙げている
  • 派遣スタッフは派遣先も守る側に入る。請負・業務委託は義務の対象外だが、同じ方針を示すことが望ましい取組とされている
  • 罰金はないが、労災の認定基準にカスハラが明記されており、放置は安全配慮義務違反として民事責任になり得る。その分かれ目が対応記録

次のアクションは3つのうちどれか1つです。

  • 今日: 相談窓口を誰にするか決めて、その名前を社内に伝える。既存のパワハラ窓口への相乗りでよい
  • 今週: 本記事の基本方針のひな形に社名を入れて1枚にし、対応記録様式を印刷して受付に置く
  • 今月: 方針・ルール・記録様式をパート・アルバイトを含む全員に周知し、周知した日付と参加者を記録に残す

制度としてやることは、決めて、書いて、周知することに尽きます。手間がかかるのはその後で、記録が続く形をどう作るかのほうに実務の負担が寄ります。当社は記録や報告書まわりの自動化を日々扱っているので、「クレーム対応の記録が続かない」「電話が多くて手が回らない」という段階からの体制づくりであれば、無料資料で足りる範囲とそうでない範囲の切り分けからお手伝いできます。

次に読む

更新履歴

  • 2026-08-28: 初版公開。指針本文(令和8年厚生労働省告示第51号)・詳細版リーフレット・新旧対照条文・法令データベース・令和5年度/令和2年度の実態調査・東京都例規集の条例本文・人材開発支援助成金のページを一次資料として確認し、措置10項目の実務訳、方針と記録様式のひな形、罰則と労災・民事責任、派遣先の措置義務、3年間の変化の当社集計を反映
  • 次回更新予定: 2026年9月中旬(施行直前の追加資料の有無を確認し、逆算スケジュールを施行後向けに差し替える)

本記事は2026年8月28日時点の一次資料(厚生労働省の指針本文・リーフレット・法令データベース・新旧対照条文・人材開発支援助成金のページ、東京都例規集の条例本文)に基づきます(公開日: 2026年8月28日)。制度の最新要件と自社への適用は、厚生労働省の資料および社会保険労務士・都道府県労働局で確認してください。

参考・出典

よくある質問

カスハラ対策の義務化はいつからですか?
2026年(令和8年)10月1日からです。改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号・2025年6月11日公布)により、事業主にカスタマーハラスメントを防止する雇用管理上の措置が義務付けられます。具体的な措置の中身は、令和8年厚生労働省告示第51号の指針が定めています。
中小企業や個人事業主にも適用されますか?
適用されます。義務を負うのは企業規模を問わず「事業主」で、パワハラ対策のときに改正法の附則で設けられたような中小事業主の猶予規定は、今回の改正法の附則に置かれていません。労働者を雇っていれば、2026年10月1日から大企業と同じ日に対象になります。
対策を怠ったら罰則はありますか?
罰金や懲役のような刑事罰はありません。労働施策総合推進法は、厚生労働大臣が事業主に助言・指導・勧告を行えること、勧告に従わなかったときはその旨を公表できることを定めています(改正後の第42条)。別に、行政から求められた報告をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料の定めがあります(改正後の第51条)。
正当なクレームとカスハラの違いは何ですか?
厚生労働省の指針は、カスタマーハラスメントを「顧客等の言動であること」「社会通念上許容される範囲を超えていること」「労働者の就業環境が害されること」の3要素をすべて満たすものと定めています。指針は、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであると明記しています。
パートやアルバイト、派遣スタッフも守る対象に入りますか?
入ります。指針は「労働者」を、正規雇用労働者だけでなくパートタイム労働者や契約社員などを含む、事業主が雇用する労働者のすべてと定めています。派遣スタッフについては、労働者派遣法第47条の4により派遣先も雇用する事業主とみなされ、派遣先にも措置を講じる義務があります。
取引先からの厳しい要求もカスハラになりますか?
なり得ます。指針は「顧客等」に、顧客のほか取引の相手方、施設の利用者、企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者、施設の近隣住民などを含めています。今後取引する可能性のある相手も含まれるため、企業間取引だけの会社や下請の会社も対象から外れません。
店舗がない会社でも対象になりますか?
対象になります。指針は「職場」を、労働者が業務を遂行する場所と定めており、通常就業している場所以外でも業務を遂行する場所であれば職場に含まれるとしています。取引先の事務所、打合せに使う飲食店、顧客の自宅も職場です。電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も対象です。
まず何から始めればいいですか?
相談窓口の担当者を決めて社内に伝えることが出発点です。次に「カスハラには毅然と対応し従業員を守る」という基本方針を1枚にまとめ、対応記録の様式を決めます。この3つは設備投資が不要で、数人規模の会社でも数日で着手できます。
相談窓口は専任の担当者を置く必要がありますか?
専任である必要はありません。指針は窓口の例として、担当者をあらかじめ定めること、制度を設けること、外部の機関に委託することを挙げ、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することや、労働者の上司にあたる管理監督者を担当者に定めることも考えられるとしています。既にパワハラの窓口がある会社は、そこに相乗りできます。
悪質な相手への対応として何をしてよいのですか?
指針は、特に悪質と考えられるものへの対処の例として、犯罪に該当し得る言動の警察への通報、行為者への警告文の発出、法令の制限内で商品の販売やサービスの提供をしないこと、店舗や施設への出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています。業法でサービス提供の義務が定められている業種では必要な対応が異なる点に留意するよう求めています。
対応記録には何を書けばよいですか?
日時、相手、要求の内容、対応した人、対応の内容、次にどうするかの6点が基本です。指針は事実関係の確認にあたって周囲の労働者からの聴取や録音・録画などの客観的な証拠の確認を挙げており、記録がなければ後から検証できません。1件1枚で5分以内に書ける分量に絞ることが、続けるうえでの分かれ目になります。
就業規則の変更は必要ですか?
指針が求めているのは方針の明確化と周知・啓発であり、就業規則の改定そのものではありません。ただし、相談を理由に不利益な取扱いをしない旨を定める措置について、指針は就業規則その他の服務規律等を定めた文書に規定する例を挙げています。規程に落とす場合は社会保険労務士へ確認しておくと安全です。

AI Expert 編集部運営: Orga合同会社

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この記事の検証方法: 数字・価格・仕様は一次情報(公式ドキュメント・公式料金ページ)か自社の実測だけを使い、出典に参照日を付けています。公開前に機械検証(verify_post)と、書き手とは別のAIによる事実照合を通しています。

この記事の検証環境: 施行日・定義・措置10項目・対処の例は、指針本文(令和8年厚生労働省告示第51号)と詳細版リーフレットのPDFを2026年8月28日に読んで確認しました。条番号と派遣先の扱いは新旧対照条文と厚生労働省の法令データベースで同日確認しています。統計は令和5年度・令和2年度の各実態調査報告書のPDFから転記し、3年間の変化は当社で突き合わせて集計しました。東京都の条例は都の例規集で条文を、研修の助成金は厚生労働省の該当ページを同日確認しています。公開前に、書き手とは別のAIが出典と本文の数値を1つずつ照らし合わせました。

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